『石』の総説
『石』の総説
時を遡るほどに、
石と人との間には豊かな関わりが存在していたことは
誰しもおぼろげながら知っている。
しかし、ことさらにそのことを大切に想っている者の数は
ごく限られているといってもよいだろう。
人の知力の成果、
あるいは人工のあだ花に満ち満ちた現代社会の中で、
便利快適さに酔い、快楽を欲しいままにしている人々も、
今一度、人の存在の根源にある「石」に想いを寄せ、
それと対峙することで
「生」のより深い意味を考えてみることの意義は
大きいのではないだろうか。
自然そのものの「石」から
人生を学ぶことができる奥の深さや、
「石」の飾らぬありのままの美への感動をどのようにしたら、
一人でも多くの人に伝えていくことができるだろうか。
このことに心をくだいた人や
その作品等に出会えることは私にとって大きな喜びである。
平素は、ほとんど人々の意識に上がることのない
「石」と「人」との長い長い物語りを、
いつのことになるかはわからないが、
『石想記』という表題でエッセイ風にまとめることができたら、
というのが私の数少ない夢のひとつである。
「石想記」の基本コンセプトは、
人類発祥以来の石との関わりの全体に想いを巡らし、
そのことで人間の精神に
「石」の重しを置き安定化を図るとともに、
謙虚さに加え、自然を畏敬する心を取り戻すことである。
多くの先人の業績を参照し、
石が及ぼした人間精神の奥底を探りつつ、
より多岐に渡る石と人との関わりの全体を
網羅した内容を目指していきたい。
私がこれまで収集してきた石に関する書物の中で、
石と人間生活について、
いささかなりとも全体的視点で
まとめられているものは以下の通りである。
(1)石の文化史 M.シャックリー 岩波書店
(2)新・石の文明と科学 中山 勇 啓文社
(3)石のはなし 白水晴雄 技報堂出版
(4)石ころの話 R.V.デイートリック 地人書籍
(5)パワーストーン百科全書 八川シズエ 中央アート出版社
(6)愛石家の地質教室 大森昌衛・小林巌雄 徳間書店
(7)岡山の石 宗田克巳 日本文教出版株式会社
(8)石と人生 渡邊萬次郎 誠文堂新光社[「別冊農耕と園芸 水石の
心・石の味」所収]
(9)石の文化 岸加四郎 高梁川流域連盟[「高梁川第三十八号特集
『石』」所収]
(10)日本人と石 株式会社エス出版部
(11)石の神秘力[別冊歴史読本] 新人物往来社
これらに加え、
分野は異なるが「石神信仰 大護八郎 木耳社」、
「石の民俗 野本寛一 雄山閣」、
「新・石の伝説 石上堅 集英社文庫」等も
ぜひ参考にしていかねばならない。
さらには、木内石亭の「雲根志」を忘れることは出来ないし、
錬金術、石器時代、巨石文明、鉱物資源、
現代石彫刻、石仏、水石、石垣、石臼、石橋等々に
ついてのモノグラフも活用していかねばならないだろう。
以前に紹介した『石に叱られて』の「はじめに」は
わずか3頁であるが、
私が構想しつつある「石想記」を極めてコンパクトにまとめた、
いわばエッセンスといってもよいような内容である。
「遠い遠い昔、人間が石を投げて獲物をとり、
猛獣から身を守り、敵と闘っていた頃のこと」
という書き出しで始まり、
「石窟や鍾乳洞の中に住居していた人間は、
生活用具の中に石を採り入れ、
石器を創り、やがて鉱石をみつけてゆく」とすすめて
「石を素材として生み出された人間の歴史は、
石を科学的に征服した歴史でもある」
とし、「然し現代ようやく、
征服の歴史はやがて征服される運命にあると、
気づき始めた人達によって、
石の世界への見直しが始まってきた」、
「石に生かされて来たという深い宗教的反省は、
宗教的思考を益々高め深めさせている」、
「今まで石に教えられ、慰められ、励まされ、
そこに拓かれて来た私の人生には、
忘れ難いものが沢山ある」等の文が続く。
ここで、上記の石と人との関係の総説のうち、
いくつか、その構成内容を示しておきたい。
もっとも代表的成書といえば
M.シャックリーの「石の文化史」であろうが、
これは「序章」、「地球の歴史」、「道具・武器・人為物」、
「煉瓦とモルタル」、「石材の設立」、
「化粧品・宝石・装身具」、「医術と技術」、
「儀礼・宗教・呪術」の各章から成っている。
「序章」の最後は以下のような文で結ばれている。
「地球を構成する岩石は、
生物としての人類が発達してくる際に
重要な役割を担っていたものであり、
事実、初期人類の道具の材料として利用されて以来、
岩石は人類にとって役に立つものだった。
今日においても、
人類はさまざまな意味で岩石に依存する部分が多く、
〈化石〉燃料である石油資源や、
古代文明の技術が
いかんなく発揮された巨大な石材などをみるまでもなく、
これは明らかなことである。
この地球上に存在する岩石は、
われわれの最も重要な資源であるばかりでなく、
他のものによって代用することが全くできない
貴重な資源なのである。
以下の章において、
人類がこのような資源としての岩石を利用してきた方法が、
いかに人類の文化史の流れの中に
反映されているかをみていくことにしょう」
次いで、渡邊萬次郎氏(前秋田大学学長)の
「石と人生」であるが、
“石のいろいろ”、“石の利用”、“石の一生”、
“石の産地”の各章から成っているが、
このうち“石の利用”で、
石と人の関わりの全体を通観している。
「原始生活と石」、「古代生活と石」、「近代生活と石」、
「石と土建」、「石と産業」、「家庭と石」、
「宝石と飾り石」、「石と迷信」、「石と宗教」、
「石と戦争」、「石と芸術」、
「石と風景」、「石と洞窟」、「石と盆栽」、
「水石の特徴」、
「庭石の意味」の項目で組み立てられている。
なお、「人類の歴史の九九パーセント以上は、
利器に石器を使う石器時代である。
人類史に占める石器時代の重要性は
再認識されるべきである。
単に時間が長かったというだけではない。
この間に今日の私達の社会を作りだしている
もっとも基本的なものがすべて準備されていたのである
([石器時代の世界 藤本強
教育社歴史新書 一九八〇年四月]より)」という点は、
必ず「石想記」の根幹に置いてまとめていきたいものである。
最近出版された本
「文化としての石器づくり
大沼克彦 学生社 二〇〇二年五月発行」の
「はじめに」の中でも次のように書かれている。
「世界に文字や都市国家が出現して、
人間社会のありさまが記録され、
今日まで残っているのは、
ほんのここ五千年ぐらいのことであり、
四百万年ともいわれている
人類史のわずか八百分の一にすぎないということである。
私たちは、石器が、
私たちの遠い祖先が霊長類から分離して以来、
つねにつくられ、
使われてきたもので、
私たち自身の先祖が残した
人類共通の遺産であることをつい忘れがちである」
さらに、火山から噴き出される大量の石、
大雨のとき土石流となって流れ出す石、
また空から流れ落ちて来る隕石など、
どれひとつとってみても「石」は、
今日の科学文明の時代においてさえ、
脅威と不思議に満ち満ちていることの認識が
重要性であることを「石想記」で強調していきたい。
また、「石」は、
他の動物が備えているような鋭い爪も牙もなく、
速い足や、樹木の上を器用に行き来する術も持っていなかった、
なんともあぶなっかしくも頼りない存在の私達の祖先に、
身を守る隠れ家であり住処となる洞窟や、
武器を提供してくれた上に、
数知れない生活用具の素材となっていったのである。
感謝してし過ぎることはない。
「石」の計り知れない未知なる力と
恩恵への思念・情念が、
人類の遺伝子というか
本能にインプットされていないはずがない。
人は、「石」への無意識な畏敬の気持ちから、
世界の各地で、
必然的に多くの大小さまざまな
石の聖地を生み出さざるをえなかったと私は考えたい。
今日、皆が足を運ぶ寺院や神社、
及び巨大列石等の聖地は、
そのうちの極一部であるに違いない。
今では、忘れられてしまったり、
埋もれてしまっている聖地も
数多く存在するのではなかろうか。
それらの掘り起こし、
復活が大切である。
さて、最近読んで、
我が意を得たりと思った
「聖地の想像力〜なぜ人は聖地をめざすのか〜
植島啓司 集英社新書 二〇〇〇年六月発行」
という示唆に富んだ本がある。
そこから、いくつかの箇所を引用して
、本編を終えることとする。
「聖地というのは
ほとんどが地質学的な境界線上に
おかれているという事実がそれだ。
そのメルクマールとして、
それは必ず石によって表示されている」
「『なぜ聖地は一センチたりとも
場所を移動しないのか』というと、
『そこに石(石組み)があったからだ』
ということになる」
「聖地は最初から聖地なのである」
「多くの石によって印しづけられた区域は、
古代よりいかなる有為転変を繰り返してきたのか。
また、『神地』の正方形はいったい何を語るのか。
いまでは想像するしかないのだが、
おそらく磐座から
『神地』を経て社殿へと移り変わるなかにおいても、
そこで行われてきたこと自体は
ほとんど変化がなかったのではなかろうか」
「聖地とは夢を見させる場所である」
「あらゆる聖地での治療は、
特定の場所で眠らせて(籠り)、
夢を見させ、そのお告げによって
病気を治す方途を探るものである」
「かつての日本において、
神籬(ひもろぎ)や磐境(いわさか)が
神社の起源であることはよく知られたことであるが、
それらは天体ともよく結びついていたのだった。
われわれは目印なしには
時間も空間も計測することができなかったのである。
そして、そこは必ず夢を見るところなのであった」
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コメント
初めまして。
石って不思議で美しいものですよね。僕は山地の出身ですが、渓谷には径10mもあるような巨石がゴロゴロしていて、またみな色もとりどりで、いつもすごいと思っていました。思わず拝んじゃおうかってくらいな。
「石の詩人」というと、僕は宮沢賢治やパブロ・ネルーダを思い出します。とりわけネルーダが印象的です。
投稿: 弓木 | 2005年12月11日 (日) 23時32分
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